どうしたの、とどこか気が抜けた声がしたような気がして、少年は虚ろな目をほんの少しだけ動かすことができた。もう体中が痛くて悲鳴をあげていたけれど、疲れて疲れて声も出せないけれど、ちょっとだけ顔をあげることだけはできた。
白濁していく意識の中でその声を聞き取れたのは何故だろうと茫洋な視界の中でほんのり思う。
え、ちょっと、気分が悪いの、大丈夫? 救急車、呼ぼうか、それとも近くにお家がある?
ああ、ああ、ぬるま湯のようなその声を与えないで、知らない貴方。
自分は一人で生きていかなくてはならないのだから、余計なやさしさを知っていたくはないのだ。
この世はどこまでもつめたいままでいいのだ。見知らぬものばかりでいいのだ。つまらないつながりを持ちたくないのだ。
放っておいて。
自分ではそう口を動かしたはずなのに、漏れるのは風の音だけ。
思ったよりも体力の消耗が激しかったせいで、少年は何もことばにすることができなかった。
…救急車、呼んだほうがいいね。
声がした。誰かが何かをしようとしている。
またどこかに閉じ込めようとしている。
冷たくて暗い、どこかに。また、自分をそこで飼おうとしている。
いやだ、やめて。それだけはやめて。
ごめんなさい、謝るから、やめて。
頭は必死でそう考えている、だから少年も必死に体を動かして、救急車を呼ぼうとしている誰かを止めようとした。
でも動かない。ことばにもできない。視界がにじんでいく。
いやだ、いやだから、そんなのいやだ。死んだほうがマシだ。
帰って生かされるぐらいなら、死んだほうがマシなんだ。
でも気づいてくれない。誰かはこの気持ちに気づかない。だって他人だ。
知らない、他人だから。
それに思い立ったとき、少年はくたりと力を抜いた。
知らないこのつめたい世界で、弱い存在は強い存在に喰われていく。
当たり前じゃないか。
自分は弱い者だ。
だから、もう、仕方のないこと。
どれだけ哀しくても辛くても苦しくても、仕方のないこと。
だから、もう、死んでしまえばいいんだ。
救急車はいやなの?
誰かの、声がした。
ふわりといい匂いがした、気がした。
…大丈夫だよ、そんな顔しないで。
僕が守ってあげるからね。
力強い何かに包まれたのを感じると、少年は意識を飛ばした。